夜明けを待ちながら

自宅待機中

歳のせいか最近残り時間を思う

人生は短い
好きなもので身の回りを満たすには
余りにも短い
だけど人生は長い
気が狂いそうになるくらい長くて
早くリタイアさせてもらえないかと思う

でも、
この仕事を始めて10年、
今月でちょうど10年なのだと思い至ると
遠くへ来たけれど
ひどくあっという間だったから、
これからの仕事もあっという間に過ぎゆくのだと気づいたら、
愕然とする。
これから、いくつ、大切な作品に出会えるだろうか。
残された時間の短さに、はらはらする。

大切な人と、
ちょっとのお酒とたくさんの笑顔で
朝まで語り明かしたいよ。

残された時間は、あとどれくらい?

忘れないための

二子玉の、地下にあった、
立派な梁のあった小割烹
天丼がすごく美味しくて
お小遣い貯めて、たまの贅沢に通ったなぁ

銀座の松坂屋の一階にあった
ミシェルショーダンのサロン・ド・テ
チョコレートよりも夢中になった
ブルーベリーのタルト
ブルーベリーが瑞々しくておいしかった

渋谷の東急東横店の上にあった
銀座立田野の親子丼
あんみつも、みつがすごく美味しくて大好きで
親子丼まで美味しくて
もっと、たくさん行けばよかった

とうとういなくなってしまった和菓子屋さんで
毎年秋に千歳飴を買っていたこと
あのパン屋さんの食パンかあれば生きていけると思っていたこと

忘れたくない
残さず、胸に抱いていたい
思い出たち

夜明けを待ちながら、自分に向き合う

自分の心を削りながら

なるべく傷つかないように防御しながら

仕事をしていたら

いつの間にか感受性がすり減って

鈍くなって

創作意欲なんてものも家に帰ったら寝るだけの人生に埋没していって

いつしか

指の隙間からなんてきれいな消え方じゃなく

いつしか

ふらっと人が蒸発していくかのごとく

気が付いたら、私の手元からいなくなっていった

 

だけど

本当は自分でなにかをしたくて

例えば

自分の身体が思い通りに動いたらいいなと思うし

説得力のある振る舞いをしたいし

自在にTPOに合った声でTPOに合ったしゃべり方をしたい

例えば

脚本や

作詞なんて

まだまだ憧れを捨てきれない自分がいるし

演出家には嫉妬している自分がいる

例えば

漫画で収入を得るとか

好きな絵の具で絵を描くとか

立体物だって作ったり

空間演出だってしてみたい

 

ちょっとだけ、そういうことに

向き合いたいなと

 

思っている

私が私を忘れてしまわないように

夜明けを待ちながら、朝の来ない人を思い出す

このお仕事を始めてから暫く経つ。
お仕事で関わった方々は沢山いて、
そして、
もう新しい朝に出会えなくなった人たちも
その中に、いて。
だけど私のお仕事は、変わらずに続いていく。
アンハッピーなニュースの直後に無神経に流れるハッピーなニュースも、今までと変わらずに、報道される。
年の瀬の忙しない空気も相まって
なんだか変に眠れないので
ちょっとそんな人たちのことを、思い出す。

最初に、亡くなったと聞いたのは
人づてに、何年も経った後に。
私がまだまだぺーぺーだった頃に
生まれて初めて殺意と思える視線を向けられた人だった。

初めて、葬儀に参加したのは
年に一度ご一緒していたあの人。
たまに地元の電車ですれ違ったから、
いまだに、背格好の似た人がいると
もしかして、なんて思ってしまう。
優しい笑顔のあの人。

決まっていた仕事の直前に亡くなられたあの人は
未だになんだか信じられなくて
今でも軽口を叩きにひょっこり現れそうな気がしちゃう。
行こうと思えば行けたのに、
葬儀に参列しなかったせいも、あるだろうな。

アフレコでご一緒させていただいたベテランさん、
訃報の折には、
撮らせてもらった写真の入ったスマホを水没させたことを悔やんだっけ。

亡くなったんじゃなくて
この業界を離れていった人だったら
もっといる。
怪我をされてそれを余儀なくされたあのお兄さんも、
人生の決断として終止符を打ったあのヒロインも、
まだあの子達とつるんでくれてるかわいいあの子も、
ほかにも、たくさん、たくさん、いる。

何年も前のあの現場、
いつしか業界を離れていった共演者たちの名前は、驚くほど思い出せないのに
まるで昨日のことのように、思い出せる断片がいくつもある。
私は制作さんだから、
お仕事には酸いも甘いもあるから、
どうしてもすべてを手放しで素晴らしいとは言えない側面もあるけれど
それでも
学ばせてもらったことがものすごく大きかった。
頭のいい彼は、すごくそれとなく触れていた。
真面目な彼女は、きちんと悲しんでお悔やみを言っていた。
現場をまとめてくれたあの人が、思いの外ダメージを受けていて、あの頃、あの言葉にたしかに救われた彼女がいたことを、私は思い出している。

これからもきっと
私の手の届かない場所で
私のことなんて忘れた人々が
永遠の夜に旅立つのだろう。
時は止まらないから
私は時々、
私が思い出せる人のことを、思い出そう。

夜明けを待ちながら、光る星になりたくて涙する

いつも、現場中は
これが終わったら、あのチケットがある!
と思って、乗り切る
あのチケット、が存在する世の中に戻りつつあって、
感謝。

しんどい現場中に、
あー私もイケメン俳優になりたいわー
なんて、うそぶいていたけれど、
楽しみにしていた公演を客席で見ながら
あー私も光る星になりたかった、と
涙が溢れてきた。

ハイトーンが美しく歌えるパフォーマーに、
くらりと来ちゃうんだなと最近気づいた。
もはや歌詞とかじゃなくて
ハイトーンを軽々しく歌われてしまうだけで
もうキュンとする。
セリフを朗々と喋るだけで、エンターテインメントにできるひとにも
うっとりとする。

むかし、20年前にも
客席から舞台の上のスターに憧れていた。
私も、なにものかに、なりたかった。
20年経っても、
私は
なにものにもなっていないのだと
突然に気づいて
愕然とする。
あんなにマイクが離れていてもこんなにもまっすぐきらきらと歌が届いてくる、
圧倒的なパフォーマンス。
あの人みたいになりたかった、
悔しくて涙が出てしまった。
こんな輝く星に、
なにものかに、
なりたかった。

私には、何もない。
努力をしていない私に、
覚悟のなかった私に、
そんな可能性はないけれど
なにものかに、なりたかったな。
なにものかに、なりたかった。